エネルギーが切れた、あるいは満タンだ。
そのどちらでもなく、0と100の間で何となく折り合いをつけながら、メーターを上げたり下げたりしている人が、実は一番多いのでないだろうか。
田子町から送って頂いた6種類のにんにく加工品やお菓子について、まずは3種類のレビューを記事として脱稿したが、その記事の最後に僕はこう書いた。
「遠く600km以上離れた田子町から、丁寧に届けられたお菓子の味わいは、明日も何かやってやろう、頑張ってやろうと、思わせられる。本当に故郷の食文化は偉大だ。バンザイ!」
あれから1週間。
正直、僕のエネルギーは残量がもう良く分からない。
都内では、手洗いうがいからはじまる新型コロナウィルス感染対策を、まだまだ求められている。医療機関にも企業にも商店にも、もちろん一般の人にも、どことなく不安感が流れている。
ソーシャルディスタンスを何となく強要され、自粛要請からのステイホーム。
しかし、自宅生活の流れはスーパーマーケットやホームセンターに人を集めてしまう。
そうして不安と苦労を共通項にした見知らぬ相手と『ごく自然に』集まれた人達は、ちょっとだけ安心感を覚えているようだ。笑顔も見かけることもできる。
しかし、そこから一歩離れた先では、やはり、まだまだ、道行く人は不安げで不安定だ。
そんな中、僕は在宅ワークをしている。
Youtube用の動画編集と、事務所の俳優仲間に頼まれた宣材画像のレタッチ、オリジナルデザイン名刺の制作、何本かのレビュー記事と、スマートフォンの使用に関する初心者向けのオンラインレクチャー。
なんか色々やってるじゃん、と思われるかもしれないが、まったく収入にはならない。
家にいるので光熱費と食費は毎日出ていくのみ。お金は減る。でもなにより気持ちと体力、両方からエネルギーが消耗しつつある。
一番は演じる場がないことだ、本当にキツイ。
しかし。こんな暮らしでも頼もしさを感じるものがある
キッチンにずらりと並ぶにんにく加工品だ。ヒジョーに、たのもしい。
この力強い山の息吹を蓄えた品を毎日楽しめるなんて、なんと贅沢なのだろう。
と、いう訳で、エネルギーを補給しつつ、後半となる3種類のレビューを。
まず、この前と同様に換気扇を回す。今回だってもちろん『強』だ。
後半の一品目。【ガーリックスイートパイ】
シンプルなデザインのラベル。
フォントのサイズと空間のバランスが良く、商品名にしっかりと視線誘導された。
前半一品目の『元気もりもりにんにくひねり揚げ』とは全く真逆のコンセプトなのだろう。改めて『田子にんにく』が持つ、バラエティ豊かな加工品展開実現力を感じ、素材としての可能性の奥深さに感心してしまう。
パイというからには、国内で知らぬ者はいない「夜のお菓子うなぎパイ」がきっとライバル。多分、いや、……まあ、たぶん……。
あの彩度高めな赤色ベースの、精力増強感がビンビンに伝わってくる怪しげなロゴデザインのパイだ。だが僕は知っている。うなぎパイには「うなぎ」が入っていない。
そして、このガーリックスイートパイには、にんにく界のキングオブキングス(この言い回し、ハイ!そのとおり大好きです!)田子にんにくが、これでもか!というほど(……か、どうかはね、わからないけどね)入っている!。
開封した瞬間にそよぐ、にんにくの香しき芳香。それを一番感じられたのは、実はこの「ガーリックスイートパイ」だった。
フランスのお菓子「パルミエ」に由来する日本のパイ菓子は、おしなべて大柄のものが多い。しかしこれは小さめに仕上げられていて、口に運びやすい。手の届くところに置いてあれば、パッと取って食べられるような気軽さがある。味わいは、スイートと銘打っている割に砂糖や甘味料も過ぎることなく、飽きない甘さで食べやすい。そして、なにより、サクッ、サクッと噛むたび、ふわりふわりとにんにくの香りと味わいが心地よく広がる。
はじめに比較した「うなぎパイ」。実はうなぎが入っていないと言ったが、精力増強のイメージも実は本来意図したものでは無い。
出張や仕事帰りのお土産として購入し、帰宅後に一家団欒で楽しんで欲しい、ということから付けられた「夜のお菓子」というキャッチコピーが、思いもよらない方向へむかってしまっただけのことだったりする。人の捉え方とは曖昧なものだ。
フランスの代表的なお菓子に、中央アジア原産の「にんにく」が、日本の青森県田子町で出会い、美味しいお菓子となって販売される。
うつろい、はかなく過ぎゆく歴史において、奇跡のような出会いなのかもしれない。
そう思いながらつまんでいると、袋が空になっていた。まるでフランスの風がさらりと、そしてあっという間に、にんにくの香りを纏いながら、楽しみをいつの間にかさらって行ってしまったようだ。素晴らしき出会いが生み出したお菓子は、軽やかなパリの味わいを感じさせてくれているのかもしれない。
– C’est si bon.-
後半2品目は
【ガリゴリ ブラックペッパー味】
「あ!ゴリラ!」
中身のパッケージに描かれているロゴデザインは、黒にんにくを表しているのだろうか。黒いにんにくマークがゴリラに見え、思わず声に出してしまった。
現在一人住まいなので、気軽に声を出してしまうが、それもこれも、一番やりがいのある俳優の仕事が無く、家で一人在宅ワークをしている弊害であろう。
しゃべりたい。口を開きたい。
そんな気持ちを知ってか知らずか、この箱、黄色と黒に、ゴリラの口がガーッと開いていて、とても豪快で気持ちがいい。わかりやすいのだ。こういうイキオイを前面に押し出した食べ物は、食べる側もイキオイに任せて、ガッといった方が美味しく感じられるものだ。
ちなみにコショウが大好きで、僕は何にでもかける。ラーメン、スープなどの液体の類は言うに及ばず、時にはコーヒーや紅茶、漬物やお新香など、とにかくパッとかけてしまう。 当然そんなことから、期待に胸は膨らみっぱなし。
ということで早速箱から取り出し、しっかりと密封されたシール蓋を剥がす。
おお! コショウの香り! かぐわしい。
口に入れて噛んでみると、硬く焼き上げられたプレッツェルの歯応えもまた心地いい。
コショーの香りと辛さが口の中に広がる、これは思っていた以上に刺激のある一品だ。
食べる前には、コショーが強く出てしまい、にんにくの存在を感じられないのではないかと考えてしまっていたが、全くの思い過ごしだった。
香りこそコショーが強く出ているが、食べてみるとにんにくがしっかり味わえる。2つの強い味が組み合わされることで、刺激も味もさらに強くなり、濃い目でエキサイティングな味わいになっていた。
しっかりとした味のお菓子を楽しみたいという、いわゆる「欲しがり」な方には、刺さる一品ではないだろうか。
実際に、食べていると口の中が熱く、顔がホットになって、軽く汗ばむ。
外箱前面の右上にさりげなく書かれた「Pretzel」。
プレッツェルはドイツのお菓子。
硬く焼き締められたタイプは、国民飲料ビールを飲むときの、これまた国民的おつまみとして愛されている。
きっと昨今のご時世において、お酒を宅飲みで楽しまれる田子町の方々も、ドイツ国民と同様に、このガリゴリブラックペッパー味をほおばった後、ビールでガッと流し込んでいるのだろう。
お酒を飲めない僕は、もっぱら炭酸水だけど、それでもこのガリゴリを口に入れ流し込むのは楽しい。
コショウとにんにくの刺激強めなアンサンブル。
その味わいは、食すほどに、唇から体を熱くさせるスパイシーな刺激に満ちていた。
香ばしさがクセになる一品である。
後半3品目。そして、このにんにく加工品・お菓子レビューの最後の品。
【PASTACCOパスタッコ 濃厚カルボナーラ味】
お待たせしました、お待たせしすぎたのかもしれません。
誰もが認める味の組み合わせ、パスタとにんにく。スタンダードであり続けられる、ということはそれだけ「愛されている」ということでしょう。
そんな考えから、期待を膨らませ、僕は最後の一品の封を開けた。
中から出てきたのは、可愛らしいリボンの形をした、「ファルファッレ」と呼ばれるパスタのスナック。パッケージの淡いパステルな色味、小さめな文字で細やかに入れられたネーム。袋の中からふわりとチーズと卵の香り。これがファンシーと言わずして何と言うのだろう。きっと僕は、これをお店で見かけたら、手に取ってしまう。
しかし、購入はできないかもしれない。だって47才、年男のおっさんだからね!。
恥ずかしいだろ、おっさんがファンシーお菓子持ってレジに並ぶのなんてさ。
喫茶店に一人で入って「苺たっぷりスフレパンケーキ」とか「フルーツたっぷりパフェ」とか頼むより、恥ずかしいよね……。
そんなこんなで、こういうお菓子をほとんど購入することはないので、ここにきて新たな境地に足を踏み入れることができた、そういうことだろう。
改めて田子町観光協会さんにお礼を述べたい、ありがとうございます。
食べてみると、カルボナーラを一度にたっぷりと口に含んだように感じた。
チーズの香りが強い。この時点で僕は「きっとこのまま、なんとなくにんにく入ってますよ」的な、いわゆる「にんにくの香りが気になってしまう、だけど、ちょっと食べてみたい」そんな女子向けソフト路線で味わいが進むのだろうと思っていた。
しかし、一度、二度と、噛むたびに、思っていたよりも強くしぶとく主張してくる『にんにく』の味わいを感じ、うれしい誤算がやってきてくれたのだと気が付いた。
チーズにのって、にんにくの味が遠慮なく広がってくる。
まるで、軽めな作りと思い見始めた映画が、思いのほかしっかりとした骨太なストーリー展開を見せてくれたようで、僕は嬉しくなった。
味わいつつ飲み込んでみる。鼻にスッと抜けたにんにくの風味がまたさわやかで、思わず次々と手に取ってしまう。
時折、セルフィ―を撮ろうと、パスタッコを蝶ネクタイに見立て首の下にあてて、誰ともなくおどけてみたりしながら。
6種類のうちで一番「にんにく味」を感じることができ満足した僕は、これら「にんにく」を使ったお菓子、加工品が教えてくれたことは何だったろうと思い、振り返ってみた。
感染症が広がる今の日本には、仕事を失った人、日々の安定が崩れた人、毎日の生業が立ち行かなくなった人が日ごと増えている。そんな時期にあって大事なのは、自分を守るために全力を尽くすことだ。今の自分を守るために、信頼できる隣人と知恵を出しあって協力しながら、暮らしを継続していくのが優先事項だろう。
その上で。生きていくには、なによりも健康であることが必須だ。
新型コロナウィルスの流行を乗り越え、この状況に打ち克った先の未来に歩んでいくために、滋養と強壮を誰もが得なければならない。
映画『火垂るの墓』では、戦中を生きる4才の節子が生き抜くため「滋養を付けるしかない」という医者の言葉が、兄を通じて間接的に投げかけられる。しかし、それを実践できないことから、幼い二人の兄と妹は悲劇に見舞われてしまう。
この現代では、なかなか当てはまることは無い出来事かもしれない。
だからといって、今あるものが今のまま、明日も今日と同じ。とは、すでに言えなくなっているのも事実だろう。
僕の住む江東区のスーパーは、週末になると食料品や日用品のほとんどが売り切れる。
食品の流通量が人口に追い付いていないので、最近はほぼ毎週そうなってしまう。
自給自足できる地方は強い。地元の岩手からの便りでも、食べ物に困っているという話は、全く聞いたことが無い。地方それぞれにある、それこそ生産に力を入れているような特産品は、広く全国展開しているようなものでない限り、ある程度、地元への流通も確保できているとも聞いた。
その話を聞いた時、送られてきた色とりどりのパッケージを眺め、強く、東北への羨ましさが湧いた。凝縮されたエネルギーのカタマリが、田子町の方々や近隣の方々の気持ちを元気付け、体の健康を守ってくれているのかもしれない。そう思ったからだ。
明日をも知れぬ今の世にあって、これまで大事に愛し育ててきた『にんにく』が、滋養と強壮を恩返ししてくれているのかもしれない。
それをこうして、いくらかお裾分けしてもらったと考え、凹み気味の僕は明日もまた、何かやってやろう、頑張ってやろうと思っている。
本当に本当に故郷の食文化は偉大だ。
凹み気味の中年俳優すらやる気にさせてくれる。ありがとう、そしてバンザイ!。
私が記事を書きました。
都内で俳優、写真家、作家、映画監督として活動しています。 2020年1月に新たなステージを求め起業。WEB系の広告映像制作会社を経営中です。出身は岩手県二戸市。都内での活動開始前は、地元岩手にてNHK盛岡放送局の岩手県北地域通信員を勤め、撮影および取材活動にて北岩手を走り回っておりました。ライター経験は、WEB系として企業系サイト、ブログ、SNS、映画レビューの寄稿。報道はニュース、時事ネタ、天気等。ほかに、小説、映画脚本、舞台脚本など。見ていただき、聞いていただき、感動していただく。日々、そう考えながら、喜びあるコンテンツを生み出すべく、表現活動を継続しております。